SESという働き方がどういうものか、入社してしばらく経ってからようやくわかってきました。自社に出社することはほとんどなく、客先と呼ばれる別の会社に常駐して働く。プロジェクトが変わるたびに環境も人間関係もリセットされる。それ自体がつらいというより、自分がどこに属しているのかいつも曖昧なままでいることが、じわじわと体に堪えていきました。
辞めたいと思い始めたのは、ちょうど契約更新のタイミングが近づいた頃でした。現場の雰囲気が合わなかったし、毎朝起き上がるのが少しずつしんどくなっていました。上司に相談しようとしたのですが、最初に返ってきた言葉が「今は契約があるから」でした。それだけで、その先の話がすべて止まってしまいました。
「次の更新まで待ってほしい」「今抜けられると客先に迷惑がかかる」——そういう言葉が続きました。言っていることはわかります。でも、だからといってあと何ヶ月も同じ状態で働き続けられるかどうか、自分でも自信がなかった。契約という言葉が、見えない壁のように立ちはだかっている感覚でした。
自分で調べるうちに、「雇用契約と業務委託契約は別物で、労働者はいつでも退職の意思表示ができる」という情報を見かけました。でも、本当にそうなのか確信が持てなくて。会社から損害賠償を請求されたらどうしよう、という不安が頭を離れませんでした。夜、布団の中でそんなことばかり考えていました。
ある夜、退職の手続きを代わりに進めてくれる窓口があることを知りました。契約トラブルに関する相談も受け付けているということで、半信半疑のまま問い合わせてみました。翌朝には返信が来て、自分の状況を伝えると「手続きを進められます」と言ってもらえました。その一言で、肩の力が少し抜けた気がしました。
その後の手続きは、ほとんど自分では動かなくて済みました。会社への連絡も、やり取りも、代わりに対応してもらいました。会社側から何度か連絡が来ているとは聞きましたが、直接話すことはありませんでした。損害賠償の話も、最終的には出てきませんでした。怖がっていたことが、思ったほど現実にはならなかったのです。
退職が正式に認められた日、最初に感じたのは静かな安堵でした。劇的な解放感というより、長い間ずっと緊張していた何かがゆっくりほどけていくような感覚でした。その日の夜は、久しぶりに朝まで眠れました。
あの頃の自分に言えることがあるとすれば、「契約があるから辞められない」は必ずしも正しくない、ということです。法律のことも、手続きのことも、自分一人で抱え込まなくていい手段がある。それを知っているかどうかで、取れる選択肢がずいぶん変わるのだと、あとになって気づきました。