SESという働き方を選んだのは、いろんな現場を経験できると聞いたからでした。実際、最初の数年はそれなりに充実していたと思います。でも30代に差し掛かったころから、何かがじわじわとずれていくような感覚が続くようになりました。
客先では「あなたの会社に言っておいてください」と言われ、自社に戻れば「客先の意向に合わせてください」と言われる。どちらの言葉も間違ってはいないのですが、両方を同時に満たすことがどんどん難しくなっていきました。打ち合わせのたびに、胃のあたりがすこし締まる感じがしていました。
特につらかったのは、スケジュールの調整でした。客先はもっと早く納品してほしいと言い、自社は人員を増やせないと言う。その間に立って毎日メールを書いていると、自分がただの緩衝材になっているような気持ちになりました。誰かの役に立っているのかどうか、よくわからなくなっていきました。
ある時期から、朝起きると体が重くて、出勤するまでに時間がかかるようになりました。電車に乗っても、客先に着いても、どこかぼんやりとした感覚が続いていました。仕事自体が嫌いになったわけではないのですが、この構造の中にいることに、じわじわと消耗していたのだと思います。
退職を考え始めたのは、ちょうどその現場の契約更新のタイミングでした。更新しても状況は変わらないだろうという予感がありました。でも自社への退職の申し出を想像すると、引き止められること、次の現場のこと、いろんな場面が頭に浮かんで、なかなか踏み出せずにいました。
結局、代わりに退職の手続きを進めてもらえるサービスがあることを知って、利用することにしました。自分で上司に話すことへの不安が大きかったので、その選択はとても助かりました。手続きが始まってからは、あとは任せるしかないと思って、できるだけ普通に過ごすようにしていました。
退職が正式に決まった日、特別なことは何もなかったのですが、夜に食べたごはんがおいしく感じられました。久しぶりのことでした。板挟みの毎日がなくなると思うと、体がすこし軽くなったような気がしました。
その後しばらく休んでから、別の形で仕事を探しました。今は以前とは違う環境にいます。完璧ではありませんが、誰かの顔色だけを気にして動く必要がない分、自分のペースで仕事ができています。あの時、踏み出してよかったと思っています。