入社して三日目の朝、電車の中で急に涙が出てきました。泣く理由なんてないはずなのに、身体が勝手に泣いていました。そのとき初めて、何かがおかしいと気づきました。
研修が始まってすぐ、上の人たちの話し方が気になっていました。怒鳴るというほどではないのですが、誰かが少しミスをするたびに空気が重くなって、その場の全員が息をひそめる感じがありました。就職活動のときに想像していた職場とは、まったく違っていました。
一週間が過ぎたころから、夜に眠れなくなりました。布団に入っても翌朝のことが頭を離れず、気がつくと朝四時になっていることもありました。食欲もなく、昼に出されたお弁当をほとんど残していました。身体が先に、限界を感じ始めていたのだと思います。
入社して二週間目に、退職を申し出ることにしました。文章を何度も書き直して、頭の中でシミュレーションも重ねました。「一身上の都合で退職したい」とだけ伝えればいい、そのはずでした。でも実際に上司の前に座ると、準備していた言葉がすべて消えてしまいました。
「まだ二週間しか経っていないから、もう少し続けてみよう」と言われました。否定されたわけではないのに、その言葉でうまく返せなくなってしまいました。「わかりました」と答えて席に戻ったとき、自分が何をしに行ったのかわからなくなっていました。引き止められたというより、自分が崩れてしまった感覚でした。
それから一か月、毎朝出社しながらずっと辞め時を探していました。でも話しかけるタイミングをつかめないまま日が過ぎて、だんだん「もう言い出せないかもしれない」という気持ちになっていきました。最初に言えなかったことが、じわじわと自分を縛っていきました。
二か月目に入ったとき、もう一度だけ話そうと決めました。でも今度は焦りもあって、言い方が感情的になってしまいました。相手を責めるような言葉が出て、話が変な方向に進んでしまいました。その日のうちに人事まで呼ばれて、「話し合いの場」になりました。辞めたいのに、なぜか謝っていました。
結局その後も数週間引きずって、最終的には退職できましたが、思っていたより時間も体力も消えていました。あのとき最初に一人で抱えず、誰かに間に入ってもらえていたら、もっと早く楽になれたのだと、今では思います。自分で全部やろうとしたことが、一番の失敗だったかもしれません。