入社の日のことは今でも覚えています。スーツの袖を何度も引っ張りながら、同期と並んで会議室に座っていました。研修が始まると聞かされていたけれど、それがどれほど長く感じられるものなのか、そのときはまだ想像できませんでした。
研修は毎日びっしりと組まれていました。朝から夕方まで、マニュアルを読み込んで、ロールプレイをして、振り返りのレポートを書く。内容よりも雰囲気が少しずつ自分を削っていく感じがありました。失敗するたびに教室中に響く声で指摘されて、顔が熱くなるのをこらえる日が続きました。
二週間が過ぎた頃、朝起きるのが難しくなってきました。目が覚めても体が布団から離れず、会社のことを考えると胸のあたりが重くなりました。食欲もなくなって、昼食をほとんど残す日が続きました。同期が普通にこなしているように見えて、自分だけがついていけていないような気がしていました。
休日も気が休まりませんでした。月曜日が近づくにつれて気持ちが沈んでいき、日曜日の夜はほとんど眠れないことも出てきました。「慣れれば変わる」と自分に言い聞かせていましたが、慣れていく気配がまったくありませんでした。
ある夜、ふと「このまま続けることが本当に正しいのだろうか」と思いました。就活のときに思い描いていた働き方と、目の前にある現実の間に、埋めようのない距離を感じていました。辞めることへの罪悪感と、続けることへの恐怖が、ぐるぐると頭の中を回り続けていました。
信頼できる人に相談したところ、退職の手続きを自分の代わりに進めてもらえる方法があると教えてもらいました。直接伝える自信がなかったので、その方法に頼ることにしました。連絡ひとつで手続きが動き始めたとき、肩に乗せていた何かがすうっと軽くなる感覚がありました。
退職が正式に完了したと知ったのは、それから数日後のことでした。会社に行かなくていい、あの研修室に戻らなくていい、と気づいたとき、じわじわと涙が出てきました。情けないとは思いませんでした。それより先に、やっと終わったという気持ちが来ました。
今は少しずつ体の調子が戻ってきています。朝、自然に目が覚めるようになってきました。新卒でそんなに早く辞めてよかったのかと問われると、正直なところまだ答えを探している途中です。でも、あのまま無理をして体を壊していたら、もっと長い時間をかけて立て直すことになっていたかもしれない、とは思っています。