その朝、目が覚めた瞬間に「もう無理だ」と思いました。起き上がろうとしても体が重くて、天井を見たまましばらく動けませんでした。30代になってからは多少のことでは折れないつもりでいましたが、あの朝だけは違いました。制服に手をかけることができなかったのです。
振り返ると、限界は少しずつ積み重なっていたのだと思います。人員が足りない中で業務量だけが増え、先輩からの言い方もここ数か月でずいぶん変わっていました。それでも「もう少しだけ」と自分に言い聞かせてきた。その「もう少し」が、あの朝ついて尽きたのだと感じました。
職場に電話して「今日から来られません」と伝えられるような状態ではありませんでした。声を出すだけで涙が出てきそうで、師長の顔を思い浮かべるだけで胸が苦しくなりました。引き止められたら断れない、責められたら崩れてしまう、そういう確信がありました。
スマートフォンで退職を代わりに手続きしてくれるサービスがあることを知ったのは、その日の昼前のことでした。ベッドの中で検索していて、「即日対応可能」という文字を見つけた時、初めて少し息ができた気がしました。自分で連絡しなくていい、という意味が体にじんわりと染みてきました。
申し込んでから数時間もかからないうちに、担当の方から連絡がありました。今の状況を話すと、落ち着いた口調で「今日中に職場へ連絡します」と言ってもらえました。何度も謝りそうになりながら話していた自分に、「謝らなくていいです」と返されて、少し泣きました。
その日の夕方、職場への連絡が完了したという報告が届きました。スマートフォンの画面を見ながら、あの師長室には二度と行かなくていいのだということが、ゆっくりと実感になっていきました。荷物のことや書類のことも一緒に動いてもらえると聞いて、ようやく夕飯を食べる気になりました。
退職が正式に完了するまで、職場から直接連絡が来ることはありませんでした。こんなにすんなり終わるものかと、どこか拍子抜けした気持ちもありました。でも体はその分だけ正直で、翌朝は久しぶりに自分から目が覚めました。
看護師を続けることへの気持ちは、今もまだ整理しきれていません。ただ、あの朝の自分が取った選択を後悔はしていないです。壊れる前に止まれたこと、それだけで十分だったと思っています。