入社して半年が過ぎた頃、初めて給与明細をじっくり見比べてみました。毎月20時間以上は残って仕事をしていたはずなのに、残業代の欄にはいつも同じ数字が並んでいました。固定残業代として最初から含まれている、と採用面接のときに説明を受けていたのですが、その上限時間をとっくに超えていることに、そのとき初めて気がつきました。
先輩に聞いてみたことがあります。「うちはそういうもんだよ」と笑いながら言われました。それ以上何も言えませんでした。営業の仕事自体は嫌いではなかったし、数字を追いかけることも苦ではなかった。でも、働いた分が正当に支払われていないという感覚は、じわじわと何かを削っていきました。
月末の追い込み期間になると、終電を逃すことも珍しくありませんでした。タクシー代は自腹です。クライアントへの手土産代も、経費として認められないものは自分で払いました。手取りで考えると、時給換算でいくらになるのか、考えたくなくて計算しないようにしていました。
転職を考え始めたのは、同期が一人、また一人と辞めていったからです。話を聞くと、みんな同じことを言いました。「割に合わない」と。口に出してみると、自分もずっとそう感じていたのだと気づきました。でも、直接上司に退職を伝えることへの怖さが、なかなか踏み出せない理由になっていました。
退職代行を使うことにしたのは、同期の一人に教えてもらったからです。最初は少し後ろめたい気持ちもありました。でも、もう自分の口からは言い出せないところまで来ていると感じていたので、背中を押してもらえた気がしました。手続きはあっけないほどスムーズで、翌日から会社に連絡を取る必要がなくなりました。
退職後、未払い残業代については相談窓口に問い合わせてみました。証拠として残しておいたチャット履歴やメールのタイムスタンプが役に立ちました。全額ではありませんでしたが、一定の金額が戻ってきたとき、長い間ずっと胸の底に沈んでいたものが少し浮かんできた感じがしました。
今は別の会社で営業の仕事を続けています。残業した分はきちんと申請して、明細に反映されることを確認するようになりました。当たり前のことが当たり前にある環境というのは、こんなにも違うものなのかと、毎月の給与日に思います。あのとき動いてよかったと、今は素直に感じています。