その日の朝、もう行けないと思いました。布団の中で目が覚めて、体が起き上がろうとしないのです。派遣先に配属されてから三ヶ月が経っていましたが、毎朝同じような感覚が続いていました。それでもなんとか出勤していたのに、その日だけは本当に限界でした。
職場の雰囲気が最初から合わないと感じていました。直接雇用のスタッフと派遣との間に見えない壁があって、話しかけてもらえることは少なく、指示も最小限しか来ませんでした。ミスをすると、その場ではなく後から派遣元の担当者を通じて連絡が来ることもありました。それが続くうちに、自分がそこにいてはいけない人間のような気がしてきたのです。
その日の午前中に、派遣元の担当者へ電話しました。「今日で辞めたい。もう行けない状態です」と伝えました。声が震えていたと思います。担当者はしばらく沈黙してから、「気持ちはわかりました。ただ、すぐというのは難しくて」と言いました。
理由を聞くと、契約期間の途中であること、派遣先に引き継ぎの調整が必要なこと、そしてすぐに辞めた場合に違約金に近い扱いになる可能性があることを、淡々と説明されました。自分では「派遣だから身軽に動ける」と思い込んでいたのですが、契約の仕組みをちゃんと理解していなかったのだと、その時になって気づきました。
翌日、派遣元の事務所へ出向いて話し合いをしました。担当者は丁寧に対応してくれましたが、結論は「最低でも二週間は続けてほしい」というものでした。派遣先にも話が通っており、急な欠員は困るという意向が伝えられていました。自分の意思よりも、契約と現場の都合が先に動いていたのです。
結局、その後も出勤しなければならなくなりました。もう行けないと思った職場に、また戻る。その繰り返しの中で、体の疲れよりも気持ちが削れていく感覚がありました。毎朝、玄関で少しの間だけ立ち止まって、深呼吸して出ていくのが習慣になっていました。
二週間が過ぎて、ようやく最終日を迎えました。達成感はなく、ただ終わったという感覚だけがありました。即日で辞められると思っていたのに、結果的に引き止められる形になってしまったことへの後悔は、今もどこかに残っています。もっと早い段階で、契約の内容や辞め方の選択肢を調べておくべきだったと思います。
あの時に知っておけばよかったと感じることが、いくつかあります。派遣の契約期間中に即日退職を希望する場合、自分ひとりで進めようとするのは難しいケースが多いということ。そして、限界を感じたら早めに動き出すことが、結果として自分を守ることにつながるということです。