「契約更新はありません」と告げられたのは、終業間際のことでした。担当者からのその一言を、どこか遠い場所から聞いているような気がしました。頭では理解していたのに、帰り道ずっと、何も考えられないままでした。
派遣という働き方を選んだのは、正直なところ「気楽さ」を求めていたからでした。でも実際には、三ヶ月ごとに訪れる更新の時期がいつも少し怖くて、毎回、胸の奥がざわついていたのを覚えています。今回もそのたびに「もう一回だけ」と更新されてきたのに、それがついに止まりました。
更新停止を知らされてから、残りの出勤日がなんとも言えない空気になりました。同じフロアの人たちと目が合うたびに「もう知っているのかな」と思って、なるべく小さく動くようになっていました。お昼も一人で手早く済ませる日が増えました。
最初は、期間満了まで黙って働いて、そのまま終わりにしようと思っていました。でもある朝起きたら布団から出る気力がなくて、そのまま一時間ほど天井を見ていました。「このまま何も言わずに終わるのは嫌だ」という気持ちが、じわじわと上がってきた朝でした。
自分から退職の意志をはっきり伝えようと思ったとき、誰にどう話せばいいのかわかりませんでした。派遣元の担当者なのか、就業先の責任者なのか、連絡先を調べるだけで気が重くなって、その日は何もできないまま夜になりました。
退職の手続きを代わりに進めてもらえるサービスがあると知ったのは、ちょうどそのころです。半信半疑のまま問い合わせてみたら、思っていたよりずっと丁寧に説明してもらえて、その日のうちに依頼することにしました。自分で電話しなくていいという、それだけのことが、あのときの自分には大きかったです。
翌日から、職場への連絡を自分でしなくてよくなりました。その事実だけで、体がずいぶん軽くなった気がしました。手続きが完了したという知らせを受けた夜、久しぶりにちゃんと眠れました。
振り返ると、更新停止の通知は、ある意味で背中を押してもらった出来事だったかもしれません。自分から動かなければいつまでも同じ場所にいたと思うので、あの知らせがなければ、ずっとずっと先延ばしにしていた気がします。次の仕事は、もう少し自分に合う環境をゆっくり探そうと思っています。