朝、職場へ向かう電車に乗ったまま、途中の駅で降りられなくなりました。扉が開いて、閉まって、また動き出す。そのあいだ、ホームに出る足がどうしても動きませんでした。派遣として3年近く同じ現場で働いてきましたが、その朝はじめて、もう無理だとはっきり気づいたのだと思います。
きっかけは前の週のことでした。派遣先の担当者から、他の人が聞いている場で一方的に責め立てられました。内容は些細なことでしたが、言い返せる立場ではなく、ただ頭を下げ続けました。派遣という雇われ方が、こういう場面でどれだけ自分を小さくさせるか、あの日あらためて体に染み込みました。
家に戻ってから、もう明日には行けないと思いました。でも頭の中では別の声もしていました。契約期間がある、担当エージェントに迷惑をかける、急に辞めたら次が見つかりにくくなるかもしれない。そういう言葉が、夜中じゅうぐるぐると回り続けていました。
深夜に、退職代行というものを調べました。以前から名前だけは知っていましたが、自分が使うものだとは思っていませんでした。実際に利用した人の体験談をいくつか読んでいくうちに、派遣でも使えるケースがあると知り、少しだけ呼吸が楽になりました。
翌朝、問い合わせをしました。電話で事情を話すと、派遣の即日退職にも対応できると言われました。派遣元と派遣先の両方に連絡してもらえること、自分が直接やり取りしなくてよいことを確認して、ようやく決める気になりました。費用を振り込んで、あとはただ待ちました。
午前中のうちに、すべての連絡が完了したと知らせが届きました。着替えたまま部屋にいたのに、気づいたら終わっていました。派遣先にも、派遣元の担当者にも、自分の声で何かを伝えることなく、退職の意思が届いていました。その静けさが少し不思議で、しばらくスマホの画面を見つめていました。
心配していた派遣元への連絡も、代わりに対応してもらえました。その後の書類のやり取りだけは自分でしましたが、電話も直接の面談もなく、封筒を一度送り返すだけで手続きが完了しました。あれほど頭を占領していたことが、思ったよりずっと静かに片付きました。
あの朝、電車を途中で降りてよかったと今も思っています。派遣という働き方には、確かに自由な部分もあります。でもその分、立場が弱くて言いたいことを飲み込む場面が多く、知らないうちに疲弊していました。もう一日を消耗しなくてよかった、それだけで十分でした。